■大関を狙える状況から一転…
大相撲名古屋場所は、7月13日の初日が目前に迫っている。そんな中、関脇・大栄翔が右腓腹筋損傷により初日から休場するという心配なニュースが報じられた。
各報道によると、大栄翔は6月の稽古中に右ふくらはぎを負傷。一時は回復傾向にあったが、数日前にぶつかり稽古で胸を出した際に悪化させたことで休場の判断に至ったという。大栄翔の休場は、自身が所属する追手風部屋に新型コロナ感染者がいたため休場した2022年名古屋場所を除くと初のケースだが、途中出場の可否については現時点では不明となっている。
大栄翔は関脇として今年初場所から11勝、9勝、10勝をそれぞれ挙げており、次期大関候補最有力とも目されている力士。今回の故障休場により、大関とりの機運が下がってしまうのは残念なところだが、無理をして土俵に上がるリスクを考えると懸命な判断といえる。
■朝乃山は怪我の連鎖に苦戦
大相撲の力士を含めたアスリートにとって、腓腹筋損傷は再発を繰り返すリスクが非常に高いとされている。また、怪我をかばうことで自分の形が崩れたり、別箇所の故障を誘発したりという危険性もある非常に厄介な怪我だ。
直近の角界では元大関・現幕下の朝乃山が、腓腹筋損傷を負って以降に大きく番付を落としたケースがある。朝乃山は2023年10月の秋巡業中に左腓腹筋損傷を負い、翌11月の九州場所を初日から休場。その後、中日から途中出場し、同日を含めた8日間で4勝4敗の成績を残した。
ただ、強行出場による影響もあったのか、2024年初場所では右足首捻挫により9日目~12日目にかけ途中出場。同年の春巡業では右膝内側側副靱帯損傷を負い、次の夏場所では全休を強いられた。さらに、翌名古屋場所では4日目の取組で左膝前十字靱帯断裂、左膝内側側副靱帯損傷、左大腿骨骨挫傷と大怪我に見舞われ、同日から2025年初場所まで全休。これにより幕内はおろか関取の座も失い、最終的に西三段目21枚目まで番付が下落している。
今回の大栄翔の故障の程度について、追手風親方は次に痛めると秋場所の出場も危うくなるレベルだと語っているという。そのため、無理をおして出場すると、朝乃山のような怪我の連鎖が待っている可能性も決してゼロとはいえないのではないか。
■怪我の功名になる可能性も?
仮に初日から途中出場することなく全休となれば、次の秋場所は平幕下位まで番付を下げる可能性が濃厚となる。ここ数年は常に三役、平幕上位を維持してきただけに、本人にとってもファンにとっても残念なところではあるが、考え方次第では怪我の功名になる展開も考えられる。
大栄翔は強烈な突き押しを武器にここまで出世してきた力士だが、このスタイルは体力の消耗や身体への負担が激しいとされている。にもかかわらず、初土俵となった2012年1月場所からここまで、故障休場なく1070回連続出場を重ねてきたことは立派の一言に尽きるが、31歳を迎えた肉体に勤続疲労が溜まっている面は否めないだろう。
ただ、本場所休場によってできた時間を使い身体や相撲を見つめ直せば、故障前よりもいい状態でリスタートを切ることができる。角界の歴史を振り返ると、大関→序二段→横綱とV字回復を果たした照ノ富士(現伊勢ケ濱親方)をはじめ、故障や病気を乗り越え強くなって戻ってきた力士は数多くいるが、大栄翔も適切なケアさえ行えば同様のルートを辿ることは十分可能だろう。
2021年初場所で初優勝、2024年夏場所から先場所まで7場所連続勝ち越しと実力は確かな大栄翔。コンディションを回復させ、万全の状態でカムバックすることを多くの相撲ファンが願っている。