■2日連続結びの一番で…
大相撲名古屋場所は16日、4日目の取組が行われた。結びの一番では横綱・大の里と平幕・王鵬が対戦したが、横綱・豊昇龍が2敗目を喫した前日の結びに続き、一部観客が取組後に土俵へ向かって座布団を投げ込むシーンがあった。
大の里は初日から3連勝、一方の王鵬は3連敗と対照的な状況で迎えた一番。立ち合い、大の里は胸からぶつかりつつ右を差そうとしたが、王鵬はこれを防ぎつつ大の里を突き起こす。すると、ここで大の里は後方に引いてしまい、これに乗じた王鵬から勢いのある押しを受ける。これをいなすために右方向へ回り込もうとしたが、圧力を受けきれずに左足を土俵外へついた。
決着後、大の里はその場で両手を腰に当てながら悔しそうな表情を浮かべたが、これと同時に土俵へ向かって大量の座布団が投げ込まれた。場内にはすぐに「大変危険ですので、座布団は投げないようにお願いいたします」とアナウンスが流れたが、これを無視するかのように投げられた座布団も少なくなかった。
日本相撲協会の公式YouTubeチャンネルが投稿したこの取組の動画では、王鵬が勝ち名乗りを受ける最中、土俵そばに座っていた観客の頭上を座布団が猛スピードで落下。頭をかすめた客が驚きの表情を浮かべる様子も映っている。
■過去には実際に被害が出たケースも
大相撲の世界では横綱が平幕に敗れるなどの番狂わせが起きた際、観客が興奮や失望の意味を込めて座布団を投げ込むことが長年慣習となっていた。しかし、現在では明確に禁止行為として定められている。
相撲観戦時のマナーや禁止行為について定める『相撲競技観戦契約約款』では、「土俵、座席、通路、階段等の相撲場への物品の投げ入れ」、「相撲競技の円滑な進行または他の観客の観戦を妨げまたは妨げる虞のある行為」などは禁止行為にあたるとはっきり書かれている。主催者である日本相撲協会も、入場者に配られる取組表に注意文を記載したり、取組間のアナウンスで注意喚起を行ったりしているが、伝統を悪い意味で重んじている観客はまだまだ少なくないのが現状だ。
座布団投げは自身が退場処分を受けることはもちろん、力士や他の観客に怪我を負わせてしまうリスクも大きい。過去には、場内アナウンス中の行司の後頭部に座布団が直撃し、持っていたマイクに前歯が当たり口の中を切る怪我を負ったケースもある。また、子どもや高齢者の場合は当たりどころが悪いと命にも関わりかねないため、会場に足を運ぶファンには今後厳に慎んでほしいところだ。
■勝った王鵬にも水を差す形に?
そもそも、今回の取組で座布団を投げることは、勝った側の王鵬に対しても水を差す行為だったといえる。王鵬は3日目まで白星を挙げられていなかったとはいえ、夏場所では関脇を務めるなど実力は確かな力士。また、今年は初場所、春場所にかけ大の里に連勝しているが、今年対大の里戦で2勝を記録しているのは、名古屋場所前時点では王鵬と豊昇龍(初場所、夏場所)の2名のみだ。
こうした要素もあり、4日目の結びの一番については初日から絶好調だった大の里の勝利予想が優勢な一方で、王鵬が“大の里キラー”ぶりを発揮し年間3勝目を挙げると予想するファンの声も少なくなかった。にもかかわらず座布団を投げ込んだ観客は、王鵬の勝利を全く予想していなかったと言っているようなものであり、堂々とした戦いぶりでまっとうに勝利を掴んだ王鵬へのリスペクトに欠ける面もあるのではないだろうか。
名古屋場所はまだ残り11日間と先が長いが、今後の取組ではもう1枚も座布団が場内を舞わないことを願いたいところだ。